ASD向けの対策が効かないのは、努力不足ではないかもしれない

ASD傾向のある自分にとって、開発の仕事そのものは比較的やりやすい部類です。バグを追いかける、ドキュメントの誤りを一つずつ潰していく。個人で閉じた作業には抵抗がなく、むしろ集中できて楽しいくらいです。

やりにくいのは、会社員として働く以上避けられない報連相のほうでした。

よく挙がる対策には、前提条件がある

ASDのある人向けの対策として、よく挙がるものがあります。指示は口頭ではなくメールでもらう。曖昧な指示は具体化してもらう。自分も受診先で似た助言を受けました。

どれも理にかなっていますし、実際に効く場面もあります。ただ、しばらく働いてみて気づいたことがありました。これらの対策には前提条件があるということです。

その前提とは、頼める相手がいること。

メールで送ってくださいとお願いする相手。曖昧な指示の意味を確認しに行く相手。その人がどういう人かによって、対策が機能するかどうかは決まってしまいます。

前提が崩れると、対策ごと無効化される

以前いた職場に、感情の起伏が非常に激しい方がいました。

機嫌が良い日は普通に話せるのですが、悪い日は空気が張り詰めます。そうなると、話しかけるタイミングを計るだけで相当に消耗しました。キーボードを叩く音の強さや、ため息の回数で「いま行くべきか、もう少し待つべきか」を判断する。その計算に費やす時間が、気づけば仕事の大半を占めていました。

この状態では、メールで指示をもらうも何もありません。そもそも報連相の入口に立てていないからです。

どれだけ良い対策を知っていても、相手が話しかけにくい空気を出している限り、その対策は使えない。環境が悪いと、対策そのものが無効化される。

効かなかったのは、努力が足りなかったからではない

ここが、いちばん書いておきたかったところです。

対策を知っていて、実行しようとして、それでもうまくいかない。そういうとき、人は「自分のやり方が悪いのでは」と考えがちです。少なくとも自分はそうでした。もっと工夫すれば、もっと我慢すれば、と。

でも実際のところ、崩れていたのは前提条件のほうでした。道具が悪かったのでも、使い方が下手だったのでもなく、その道具が働く土台がなかった。それだけのことです。

環境が変わると、対策を意識しなくてよくなった

いまは別の会社にいます。お互いに敬意をもって接するという考え方が、かなり自然に根付いている環境です。

面白いのは、例の「よく言われる対策」を、そこまで意識しなくてよくなったことでした。曖昧な指示があっても、気軽に聞き返せばいい。聞き返しても嫌な顔をされない。たったそれだけのことで、仕事のやりやすさが根本から変わりました。対策で補おうとしていた部分を、環境そのものが吸収してくれている感覚があります。

そして、以前の職場で耐えていた時間には、ほとんど意味がありませんでした。限界が来て相談したときには異動があっさり認められ、心配していた待遇面の不利も、まったくありませんでした。

いま、効かない対策を握りしめているなら

対策がうまくいかないときは、自分のやり方を疑う前に、前提条件が揃っているかを見てみてください。頼める相手はいるか。聞き返せる空気はあるか。

そこが崩れているのなら、足りないのはあなたの努力ではありません。

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